第71回カンヌ国際映画祭(2018年5月8日~19日間開催)において、
最高賞であるパルム・ドールを獲得した今作、「万引き家族」。
日本人監督作品としては、史上4人目であり、1997年以来21年ぶりの受賞となった。
昨年、2018年6月公開直後から話題を呼び、興行収入は2019年1月時点で
45億円を突破。あの話題作が、満を持して遂に2019年4月3日
配信&レンタル開始となった。
Contents
映画「万引き家族」のあらすじ
東京の下町に暮らす日雇い労働者の柴田治と、クリーニング工場で働く治の妻・信代には、
夫妻の息子という祥太、JK見学店で働く信代の妹という亜紀、そして治の母という
初枝が家族として同居していた。家族は治と信代の給料に加え、初枝の年金と、
治と祥太が親子で手がける万引きで生計を立てていた。
5人は社会の底辺で暮らしながらも、いつも笑顔が絶えなかった。
ある冬の日、治は近所の団地の廊下で、ひとりの幼い女の子が震えているのを見つけ、
見かねて連れて帰る。夕食後、「ゆり」と名乗るその少女を家へ帰しに行った治と信代は、
家の中から子どもをめぐる諍(いさか)いの声を聞く。結局「ゆり」は再度柴田家に
戻された。体中の傷跡など「ゆり」に児童虐待の疑いがあることを見つけた信代は
彼女と同居を続けることを決め、「ゆり」は柴田家の6人目の家族となった。
時は流れ、夏を迎え、治は働かず、信代は仕事をリストラされるが、それでも一家には
いつも明るい笑い声が響いていた。だが、祥太だけが«家業»に疑問を抱き始めていた。
そんな時、ある事件が起こる・・・。
映画「万引き家族」カンヌ映画祭最高賞受賞
第71回カンヌ国際映画祭(2018年5月8日~19日間開催)において、
最高賞であるパルム・ドールを獲得した今作。公式上映では、約9分に渡る
スタンディングオベーションが起こり、海外のメディアからも絶賛の嵐であった。
審査委員長であったケイト・ブランシェットは、今作を「並外れた映画」であると称賛し、
中でも特に、安藤サクラの演技力に脱帽したと語った。
映画「万引き家族」日本アカデミー主演女優賞を獲った安藤サクラ
今作で1番の名シーンと言われている、安藤サクラの「泣き」のシーン。
世界を魅了した安藤サクラのこの演技、実は台本のないアドリブ演技であったことを
是枝監督が話している。ドキュメンタリー映画を数多く手がけてきた是枝監督は、独自の
演出方法として、時には台本を渡さず、その都度セリフを口頭で伝えていくなどの
アプローチ方法をとってきた。今回のシーンで、安藤サクラは尋問を受けるのだが、
その際、何を尋ねられるか、安藤自身が知らない状態で演技させたというから驚きである。
そして是枝監督は、「あの時の安藤サクラは、安藤自身ではなく、信代(役名)として、
泣いていた」と明かし、安藤サクラの底知れぬ演技力に鳥肌が立ったという。
2019年3月に行われた第42回アカデミー賞で今作は、最優秀作品賞を含む
8冠に輝き、主演女優賞は、「北の桜守」の吉永小百合や、「日日是好日」の黒木華
を差し置いて、安藤サクラの手に渡った。
映画「万引き家族」公開後に他界した樹木希林のヌードより恥ずかしい演技
映画「万引き家族」の是枝裕和監督が見せる現代日本の社会問題
今作は、親の死亡届を出さずに年金を不正に貰い続けていたある家族の
実際にあった事件をもとに、是枝が家族や社会について構想10年近くをかけて考え
作り上げた作品である。
是枝監督の名が、世に広まったきっかけの作品と言えば、2004年に公開された
柳楽優弥主演「誰も知らない」である。
この作品は、まだ世の中に‟ネグレクト”という言葉が認知されていなかった頃に、
母親に置き去りにされた幼い兄妹のリアルを描いた衝撃作である。当時、第57回
カンヌ国際映画祭で、主演の柳楽優弥が、史上最年少及び、日本人初の主演男優賞を
受賞したことで大きな話題となった。
今回の「万引き家族」も、どこかこの作品と類似する点があり、現代日本が抱える
社会問題を大きなテーマに掲げている。
昨今、日々のニュースの中で、虐待やネグレクトに関する事件は後を絶たない。
報道されるのは、その「結果」に過ぎないが、ニュースでは決して報じられることのない
背景部分こそが重要であり、個々の抱える「闇」の部分を少しでも癒すきっかけになりえる
そんな力をこの作品は持っていると強く感じる。
家族の在り方やそれぞれの生き方を、どこかほのぼのと、とてつもなくリアルに描く
「万引き家族」は、今、私たちが観るべきであり、立ち向かうべき作品である。
